「詩の引用」についての判例…著作権の重要判例

今回は、「引用」です。実務上は限界事例がとても難しい処理を求められるところです。

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◆「詩の引用」についての判例
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◆◆H16.12. 9 東京高裁

【事案の概要】本件は,A(平成14年12月31日死亡)の相続人である被控訴人らが,控訴人Xが「XO醤男と杏仁女」という小説(以下,原判決と同様に「被告小説」という。)を執筆し,控訴人株式会社日新報道がこれを出版等した行為により,Aの有していた原判決記載の詩に対する著作権(翻訳権)及び著作者人格権が侵害され,さらにAの名誉が毀損されたと主張して,控訴人らに対し,(1)著作権法112条に基づく被告小説の印刷,製本,販売及び頒布の差止め,(2)著作権法116条,112条に基づく被告小説の印刷,製本,販売及び頒布の差止め並びに謝罪広告,(3)著作者人格権侵害及び名誉毀損による不法行為に基づく損害賠償をそれぞれ請求した事案である。

【判旨】
■著作権法32条1項の「引用」について
 控訴人らは,本件詩は被告小説に必要不可欠の存在であると主張するが,控訴人らの主張によっても,本件詩が主人公小悦と古林とを繋ぐ接点であるとか,被告小説のキーアイテム,骨格であるなどとの抽象的な説明があるだけで,被告小説の当該場面において,主人公である小悦の心情を描写するために,本件詩を用いる以外には他に手段がなかったとするだけの必然性を窺わせる説明はなく,被告小説において,主人公の心情を表現する手段として本件詩を掲載しなければならない必然性を認めることはできない。
 また,「詩」が控訴人ら主張のような性質を持つものであるとしても,だからといって常にその全文を掲載しなければ意味を持たないということもできないのであり,被告小説における本件詩の掲載は,決して必要最小限度の引用といえる程度のものとは認められない。
 したがって,控訴人らの主張は理由がない。
■ 同一性保持権侵害の成否について
 被告小説において,本件詩の一部について題号が切除されていること,多くの誤訳あるいは翻訳していない語があることは,引用に係る原判決認定のとおりであって,いずれも著作権法20条2項4号が定める「やむを得ないと認められる改変」とはいえない。なお,控訴人らが引用する最高裁判例は,他人の著作物に対する論評において,他人の著作部分の内容を要約して紹介したことが,その内容の一部をわずか3行に要約したものにすぎず,38行にわたる当該著作部分における表現形式上の本質的な特徴を感得させる性質のものではないとして,当該著作部分に対する同一性保持権を侵害するものではないとしたものであって,本件とは事案を異にするものであり,控訴人ら主張のような判旨を示したものとはいえない。
 したがって,控訴人らの主張は理由がない。
…以下略

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★俳句や短歌の引用は時には全文引用も認められますが必然性がないといけませんね。

また、題号も一体として同一性を形成するものですから題号の切除はいけませんね。損害賠償が認められて然るべきでしょう。

 この原判決である◆H16. 5.31 東京地裁 平成14(ワ)26832は、

「公表された著作物を引用して利用することが許容されるためには,その引用が公正な慣行に合致し,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行わなければならない(著作権法32条1項)。そして,ここでいう「引用」とは,自己の著作物中に,他人の著作物の原則として一部を採録するものであり,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ,かつ,上記両著作物の間に,前者が主,後者が従の関係があると認められる場合をいうと解すべきである(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。」として、この基準からは正当な引用でないとしています。

★参照条文
(同一性保持権)
第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一  第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二  建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三  特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
四  前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2  国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

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