1.著作権法改正が2020年第201回国会で成立。

正式改正法の名称は「著作権法及びプログ ラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の 一部を改正する法律」で、令和2年6月5日成立,6月12日公布された。法施行日は一律でないことに注意。

2.インターネット上の海賊版対策の強化として、リーチサイト対策と違法コンテンツダウンロード規制強化

(1)リーチサイト対策(2020年10月1日施行)の趣旨

リーチサイトサイトでマスコミよく登場した「はるか夢の址」の運営者に対し刑事事件として実刑判決が下され、民事訴訟においては約1億6500万円余という高額の損害賠償の支払を命じる判決が出された。従来の著作権法の判決の金額とは比較にならない結果だ。

・裁判所の刑事事件の判決要旨「書籍データのアップ ロード行為だけでは、公衆は、書籍データの所在場所を示す URLを知らない限り、事実上、アクセスすることが極めて 難しい状態にあり、これに加えて,書籍データの所在場所を 示すURLを記録媒体に記憶,蔵置する行為(URL記録行為)が行われることにより、公衆においてその URLを介しアクセスすることが実質的に可能となると指摘したうえで、同一人がアップロードとURL記録行為の2つの行為を 一体として行うことによって情報を記録する行為による送信可能化(2条1項9号の5イ)が行われた。」(大阪高裁2019年11月1日)

・裁判所の民事事件の判決要旨「被告が自己の刑事事件の捜査段階で、アップロード行為を行ってい たことを供述していること,電子書籍の購入、アップロー ド, URL 投稿行為が近接した時間内に行われていること等から、被告によってアップロード行為が行われたものとし て、アップロードによる複製権,自動公衆送信権侵害を認定した。」(大阪地判2019年11月18日)

そこで、この流れの中で、今般の著作権改正法は、リーチサイト・リーチアプリにおいて侵害コンテンツへのリンクを提供する行為、リーチサイト運営行為・リーチアプリ提供行為を規制した。下記の法改正条文のように、リーチサイトは、リンクの集約、提供を通じて侵害コンテンツの拡散や利用に直結する場であるので,そのリーチサイトを運営す る行為は、著作権者に極めて深刻な不利益を及ぼす悪質な行為であるから、直接の著作権侵害行為と同視すべき不利益を著作権 者に与え、著作権侵害とみなすという旨の規定を設け、民事上の差止め請求,つまり削除請求や刑事罰の対象とした(第201 回国会衆議院文部科学委員会議録第9号参照)。

なお、「侵害コンテンツ」とは、違法にアップロードされた著作物等の事で、「リーチサイト」とは侵害コンテンツへのリンク情報等を集約したウェブサイトの事である。

(2)リーチサイトに関する【著作権法】改正法の内容

(侵害とみなす行為)
第百十三条 次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
‥‥
2 送信元識別符号又は送信元識別符号以外の符号その他の情報であつてその提供が送信元識別符号の提供と同一若しくは類似の効果を有するもの(以下この項及び次項において「送信元識別符号等」という。)の提供により侵害著作物等(著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この項及び次項において同じ。)、出版権又は著作隣接権を侵害して送信可能化が行われた著作物等をいい、国外で行われる送信可能化であつて国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきものが行われた著作物等を含む。以下この項及び次項において同じ。)の他人による利用を容易にする行為(同項において「侵害著作物等利用容易化」という。)であつて、第一号に掲げるウェブサイト等(同項及び第百十九条第二項第四号において「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」という。)において又は第二号に掲げるプログラム(次項及び同条第二項第五号において「侵害著作物等利用容易化プログラム」という。)を用いて行うものは、当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合には、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
一 次に掲げるウェブサイト等
イ 当該ウェブサイト等において、侵害著作物等に係る送信元識別符号等(以下この条及び第百十九条第二項において「侵害送信元識別符号等」という。)の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等
ロ イに掲げるもののほか、当該ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該ウェブサイト等において提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等
二 次に掲げるプログラム
イ 当該プログラムによる送信元識別符号等の提供に際し、侵害送信元識別符号等の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるプログラム
ロ イに掲げるもののほか、当該プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該プログラムにより提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるプログラム
3 侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示を行つている者(当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供しているに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していることその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)又は侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等を行つている者(当該公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等とそれ以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等又は当該侵害著作物等利用容易化プログラム及び侵害著作物等利用容易化プログラム以外の相当数のプログラムの公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等において、単に当該侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等の機会を提供しているに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していることその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)が、当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において又は当該侵害著作物等利用容易化プログラムを用いて他人による侵害著作物等利用容易化に係る送信元識別符号等の提供が行われている場合であつて、かつ、当該送信元識別符号等に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つている場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合において、当該侵害著作物等利用容易化を防止する措置を講ずることが技術的に可能であるにもかかわらず当該措置を講じない行為は、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
4 前二項に規定するウェブサイト等とは、送信元識別符号のうちインターネットにおいて個々の電子計算機を識別するために用いられる部分が共通するウェブページ(インターネットを利用した情報の閲覧の用に供される電磁的記録で文部科学省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)の集合物(当該集合物の一部を構成する複数のウェブページであつて、ウェブページ相互の関係その他の事情に照らし公衆への提示が一体的に行われていると認められるものとして政令で定める要件に該当するものを含む。)をいう。‥‥

第百十九条 ‥‥
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
‥‥
四 侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示を行つた者(当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等(第百十三条第四項に規定するウェブサイト等をいう。以下この号及び次号において同じ。)とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)
五 侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等を行つた者(当該公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等とそれ以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等又は当該侵害著作物等利用容易化プログラム及び侵害著作物等利用容易化プログラム以外の相当数のプログラムの公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等において、単に当該侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)‥‥

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。‥‥
三 第百十三条第二項の規定により著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者
‥‥

(3)侵害コンテンツのダウンロード違法化 (2021年1月1日施行)の趣旨

違法にアップロードされた著作物のダウンロード規制(私的使用であっても違法とする)について、対象を音楽・映像から著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)に拡大する(30条1項4号・2項・119条3項2号・5項等)。

すでに、音楽映像の時のインパクトはなくなっているので、かつてほどの大きな話題にはならなかった。

なお、国民の情報収集等を過度に萎縮させないよう,規制対象を違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合のみとする (重過失によって違法にアップロードされたものと知らなかった場合も規制対象から除外)するとともに,漫画の1コマ~数コマなど軽微なものや二次創作・パロディ,著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合のダウンロードは規制対象外とされた。

さらに,刑事罰については構成要件を厳しくして、特に悪質な行為に限定する観点から,正規版が有償で提供され ている著作物のダウンロードであること、反 復・継続してダウンロードを行うことが要件とされた。

もっともユーザーが侵害コンテンツをそうと 知りながらダウンロードしたかどうかは,外部 からは確認できず,権利行使・摘発は不可能で あるため,ダウンロードを違法化しても意味が ないのではないかという意見もあったが、自ら違法ダウンロードを行っている旨を SNSなどで誇示している場合や,違法アップ ロードに関する捜査・訴訟等の過程でダウン ロードの事実が確認された場合などには,権利行使・摘発が可能で、また権利者が警告を発した後もユーザーがダウンロードを継続しているよ うな場合には,違法だと知っていたという立証 も可能になる。

(4)著作権法改正条文

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。‥‥

三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

四 著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)

2 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。

刑罰については、第119条第3項第2号・第5項参照

(文化庁HPより一部引用)

3.著作物の円滑な利用を図るための措置(2020年10月1日施行)

(1)写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大

平成24年改正により創設された写り込みに係る権利制限規定(30条の2)は,「写真の撮 影」・「録音」・「録画」を行う際の写り込みのみが対象となる限定規定となっていたが、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や,動画投稿・配信プラットフォームの発達に対応すべく、スクリーンショットや生配信を行う際の写り込みも対象に含めるなど, 規定の対象範囲の拡大を行い、また現行法の「分離することが困難」に代わり 「正当な範囲内」なる要件が加えられた。

(2)行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係)

地理的表示法(GI法)に基づく地理的表示 の登録,種苗法に基づく植物の品種登録の審査手続においては、要件の充足性を判断するため に文献や新聞記事等の著作物が利用されること がある。審査が迅速・的確に行われるよう、権利者に許諾なく必要な文献等の複製等ができるようになった(42条2項)。

現状を法が追認したといえよう。

(3)著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入

著作権者と利用許諾契約(ライセンス契約) を締結して著作物を利用している者(ライセン シー)は,著作権が譲渡された場合,著作権の譲受人などに対し,著作物を利用する権利(利用権)を対抗することができず,利用を継続す ることができない状況にある。特許法等における仕組みを参考に,著作権法においても,ライ センシーが安心して利用を継続することができ るよう,利用権を著作権の譲受人などに対抗で きる制度を導入した(63条の2)。

4.著作権の適切な保護を図るための措置(2021年1月1日施行)

(1)著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化

裁判所 が書類提出命令を発する必要性の有無を判断する前の段階で、実際の書類を見ることができるようにするとともに,実際の書類を見て判断する際に専門委員(大学教授など)のサポート を受けられるようにした(114条の 3)。

(2)アクセスコントロール

不正利用を防止するための保護技術(アクセスコントロール)の1つとして, シリアルコー ドを活用したライセンス認証が広く普及しているがライセンス認証などを回避する ための不正なシリアルコードの提供等に対する 規制が行われた(コピーコントロールについても同様の措置がとられる。113条7項・120条 の2第4号)。

(3)プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラム登録特例法)

訴訟等での立証の円滑化に資するよう,著作 権者等が自ら保有する著作物(訴訟等で係争中 のもの)とプログラム登録がされている著作物 が同一であることの証明を請求できることとす る(これにより,登録による事実関係の推定効果を確実に享受できる)とともに,国又は独立行政法人が登録を行う場合 の手数料免除規定を廃止する(プログラム登録特例法4条・26条)。

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NKoshin
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