「バーンズ・コレクション展事件 引用・時事事件報道」についての判例を取り上げましょう。
◆H10. 2.20 東京地裁
【事実内容】
スペイン人の画家【A】は、本件絵画著作した。【A】が一九七三年四月八日に死亡したことにより、同人の子である原告、【B】、【C】及び【D】が、本件絵画の著作権を相続し、【D】が一九七五年六月五日死亡したことにより、同人の子である【E】及び【F】が、【D】が有していた本件絵画の著作権を相続した。
被告は、平成六年一月二二日から同年四月三日まで、国立西洋美術館において、「バーンズ・コレクション展」を国立西洋美術館と共同で主催した。本件絵画を複製掲載し製作し、定価二〇〇〇円で、五〇万部前後販売した。また、被告は、本件絵画三を、本件展覧会の入場券及び割引引換券に複製掲載した。
被告は、本件絵画二を平成五年一一月五日付け讀賣新聞に、本件絵画三を平成四年一二月二日付け、平成五年一一月三日付け及び平成六年一月二二日付け各同新聞に、本件絵画四を平成六年一月一日付け同新聞に、それぞれ複製掲載した。被告は、プリントをキャンバスに貼りつけ表面加工をし額装を施した本件絵画三の複製画(以下「本件複製画」という。)を製作し、定価一五万円のものについて五点、定価四万五〇〇〇円のものについて一五点販売した。
原告は、売上代金総額一〇億円に通常の使用料率である一〇パーセントを乗じた額に、本件書籍中に本件絵画の占める割合である八〇分の七(八〇は、本件書籍に複製掲載された絵画の総数、七は、本件絵画の複製画の数)を乗じた金額である通常使用料相当額八七五万円の損害を被った。
原告は、本件展覧会の入場料総額の一パーセントに相当する損害を被ったというべきところ、本件展覧会の入場者総数は一〇七万一三五二人であり、入場料は一般一五〇〇円、高校生、大学生が一一〇〇円、小学生、中学生が五〇〇円であり、割引入場券により入場した人は一〇〇〇円に割引されたことを考慮すると、平均入場料は一〇〇〇円が相当であり、入場料総額は一〇億七一三五万二〇〇〇円を下らないから、原告が右被告の行為により被った損害額は一〇七一万三五二〇円である。
本件作品は、本件展覧会の宣伝のみならず、被告の記念事業としての宣伝にも使用されたものである。また、バーンズコレクションは印象派画家の作品コレクションであるのに、被告が印象派でない【A】の作品を広告宣伝に利用したことは、【A】の作品が本件展覧会のいわば看板作品であったことを示す。このような場合の通常使用料は、少なくとも入場料収入の一パーセント相当額である。
よっては、原告は、被告に対し、本件絵画の著作権(複製権)に基づき、本件書籍の印刷、製本及び頒布の禁止、本件絵画の撮影フィルムと印刷用原版、及び本件書籍の廃棄、並びに損害賠償として金二一四六万三五二〇円及びこれに対する不法行為後である平成六年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
『被告の反論』
解説又は紹介目的の小冊子(本件書籍について)
本件書籍は、著作権法四七条にいう「小冊子」にあたるのであるから、本件絵画の複製行為は、著作権法上許された行為である。
引用による引用(入場券及び割引引換券について)
本件絵画三を、本件展覧会の入場券あるいは割引引換券に複製掲載する行為は、公正な慣行に合致し、かつ、当該入場券あるいは割引引換券上に当該絵画を引用する目的、すなわち当該美術展覧会の内容を象徴的に示すという目的に照らし、正当な範囲の引用行為であるから、著作権法三二条により許された行為である。
すなわち、入場券あるいは割引引換券は、それぞれ、その保持者が、対象となっている催し等に入場しあるいは割引価格で入場券を購入する権利を有することを表象するものである。このような美術展覧会の入場券あるいは割引引換券にその展覧会で展示されている代表的作品を収録することは、それにより当該展覧会にどのような作品が展示されているか示す目的を有するものであり、広く行われている慣行である。
また、このような入場券あるいは割引引換券は、極めて小さなものであり、これに絵画を複製掲載しても、独立に鑑賞し得るような程度の大きさになることはない。また、これらについては、保持者が長く保管することは考えにくい。
引用による利用及び時事の事件報道のための利用(新聞への掲載について)
美術展覧会の開催にあたり、その事実を報道する記事、及びそのコレクションないしその中の絵画の意味を探究する記事において、そのコレクションの一部を構成する絵画を新聞紙上で収録することは、著作権法三二条所定の引用又は同法四一条所定の報道の目的上正当な範囲内であり、かつ、これが広く行われていることからも明らかなとおり公正な慣行に合致する。
日刊新聞は、長く保存されることはあまりないものである。また、日刊新聞紙上の印刷は、カラー印刷が進んだ現在でも、単行本の美しさには及ばない。したがって、新聞記事を当該絵画の純粋な鑑賞目的のため長期にわたり用いることは考えられない。
無数の社会事象の中からいかなる情報を取りあげてどのように報じるかは、報道の自由に基づき各報道機関が自由に決することができるものである。多く報道がされたからといって、通常の新聞記事が広告宣伝に転化するものではない。
しかも、日本新聞協会が制定した「新聞広告倫理綱領細則」において明記されているとおり、新聞においては、通常の記事と広告とは截然と区別されており、読者もこれを十分承知しているから、本件展覧会の記事に接する読者も、これが広告ではなく、事実の報道や評論のために掲載されていることを容易に理解する。
本件絵画の新聞への掲載には本件展覧会の開始前にされたものもあるが、これらは、甲第八号証の「幻のバーンズコレクション日本へ」という大見出しに端的に示されているとおり、これまで門外不出であったバーンズ財団の絵画が初めて日本で公開されることになったことを報じるものである。新聞の重要な機能である事実の報道は、過去の出来事のみならず、これから予定されている出来事を報じることもある。
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【判旨】
日本及びスペイン国は、いずれも文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約の締結国であるから、同条約三条(1)項a及び我が国の著作権法六条三号により、スペイン国民であった【A】の著作物である本件絵画は、我が国の著作権法による保護を受けるものである。
著作権法四七条所定の観覧者のために美術の著作物又は写真の著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子とは、観覧者のために展示された著作物を解説又は紹介することを目的とする小型のカタログ、目録又は図録等を意味するものであり、展示された原作品を鑑賞しようとする観覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とするものであるから、掲載される作品の複製の質が複製自体の鑑賞を目的とするものではなく、展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のものであることを前提としているものと解され、たとえ、観覧者に頒布されるものであっても、紙質、判型、作品の複製態様等を総合して、複製された作品の鑑賞用の図書として販売されているものと同様の価値を有するものは、同条所定の小冊子に含まれないと解するのが相当である。
本件書籍は、約三〇〇mm×約二二五mmの規格で、上質紙が用いられており、総頁数一三六頁であるところ、そのうち九二頁には本件展覧会で展示された作品八〇点が掲載されており、しかも、各作品は、一頁につき一点ないしは見開き二頁にわたって一点が掲載されている。そして、本件絵画は、縦がいずれも約二〇〇mm、横は作品によって約一一三ないし約一四七mmの大きさで、カラー印刷で七頁にわたって、各頁に本件絵画一ないし七が一点ずつ複製されており、各絵画についての解説文は各頁の下部約四分の一のスペースに印刷されているのみであることが認められる。
3 右のような本件書籍の紙質、判型、作品の複製態様等の事実によれば、本件書籍は、実質的に見て鑑賞用の画集として市中に販売されているものと同様の価値を有すると認められるものであるから、著作権法四七条にいう著作物の解説又は紹介を目的とする小冊子に当たるということはできない。
(本件入場券及び割引引換券における引用による利用)について
1 成立に争いのない甲第四号証によれば、本件入場券は、約一九五mm×約七〇mmの規格で、その上部に、本件絵画三が約一〇六mm×約六〇mmの大きさでカラー印刷で複製されており、その下部に、「THE BARNES」、「世界初公開 巨匠たちの殿堂 バーンズ・コレクション展 ルノワール、セザンヌ、スーラ、マティス、【A】・・・」と記載され、その他本件展覧会の会場、会期、主催者名、後援者名、入場料等の事項が記載されていることが認められる。
また,本件割引入場券も、入場料の代りに割引額が記載されているほかは、本件絵画三の複製の態様、その他の記載事項等は本件入場券と同様の体裁のものであることが認められる。
著作権法三二条一項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定しているが、ここにいう引用とは、報道、批評、研究等の目的で自己の著作物中に他人の著作物の全部又は一部を採録するものであって、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物を明瞭に区別して認識することができ、かつ、両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があるものをいうと解するのが相当である。
本条項の立法趣旨は、新しい著作物を創作する上で、既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから、所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから、利用する側に著作物性、創作性が認められない場合は、引用に該当せず、本条項の適用はないものである。
前記認定事実によれば、本件入場券及び割引入場券のうち本件絵画三を除く部分の記載事項は、単にコレクションの名称、それに含まれる画家名、その他本件展覧会の開催についての事実の記載に過ぎないから、思想又は感情を創作的に表現した著作物であるということはできない。よって、右本件絵画三の複製を自己の著作物への引用であるということはできない。
同日付け同新聞朝刊の一面左上部に「幻のバーンズコレクション日本へ」との五段の大見出し、及び「セザンヌなど名画八〇点公開」、「九四年一月、国立西洋美術館」との小見出しの下に、発信地と執筆記者名が冒頭に付された四段にわたる本記と本件絵画三を含む三点の絵画のカラー印刷の図版からなる記事が掲載された。
右記事の内容は、「セザンヌやマチスなどの第一級の絵画を所蔵するアメリカのバーンズ財団は、画集でも見られない゛幻のコレクション″で知られるが、その中からよりすぐった作品を公開する「バーンズコレクション展」が九四年一月から東京の国立西洋美術館で実現することとなった。主催する読売新聞社と同美術館が、一日までに財団と基本的な合意に達した。財団は現地で三日、日本を含む初の世界巡回展の構想を発表する予定で、国際的に美術ファンの話題を集めるのは必至だ。」との書き出しで、バーンズ財団の紹介、コレクションは極めて質が高いが、公開も週末に人数を限ってで、バーンズの遺言に従って、売却はもちろん、他館への貸出しや画集への掲載も禁じられたことから、名画の実像は明らかにされなかった旨、コレクションが初公開されることになったのは、ギャラリーの老朽化に伴う改修のためであり、来年のワシントン・ナショナル・ギャラリーとフランスのオルセー美術館に続いて、再来年の一月から四月にかけて東京展を開催する旨、バーンズコレクションは、一八〇点のルノワール、六九点のセザンヌなど、総数は二五〇〇点を超える旨の説明が続き、「このうち今回出品されるのは「カード遊びをする人たち」など二〇点を数えるセザンヌを筆頭に、ルノワールが「音楽学校生の門出」など一六点、マチスが「生きる喜び」など一四点のほか、スーラ「ポーズする女たち」、ゴッホ「郵便配達夫ルーラン」、ルソー「虎に襲われた兵士」、【A】「曲芸師と幼いアルルカン」など計八〇点。いずれも初めて国外で公開される傑作ばかりだ。」と結ばれている。
また、絵画の図版は、本件絵画三が約九八mm×約五七mm、セザンヌの「カード遊びをする人たち」が約九七mm×約一三五mm、ルノワールの「音楽学校生の門出」が約八五mm×約五四mmの各大きさで掲載されている。
右事実によれば、右記事は、優れた作品が所蔵されているが、画集でも見ることのできないバーンズコレクションからよりすぐった作品を公開する本件展覧会が平成六年一月から東京の国立西洋美術館で開催されることが前日までに決まったことを中心に、コレクションが公開されるに至ったいきさつ、ワシントン、パリでも公開されること、出品される主な作品とその作家を報道するものであるから、著作権法四一条の「時事の事件」の報道に当たるというべきである。そして、本件記事中で、本件展覧会に出品される八〇点中に含まれる有名画家の作品七点が作品名を挙げて紹介されている中の一つとして本件絵画三が挙げられているから、本件絵画三は、同条の「当該事件を構成する著作物」に当たるものというべきである。また、複製された本件絵画三の大きさが前記の程度であること、右記事全体の大きさとの比較、カラー印刷とはいえ通常の新聞紙という紙質等を考慮すれば、右複製は、同条の「報道の目的上正当な範囲内において」されたものと認められる。
差止請求等について
被告は、本件書籍に本件絵画を複製し、複製権侵害行為をしたものでありながら、自己の非を認めず、右行為が著作権侵害に当たることを現に争っているから、本件書籍を印刷、製本及び頒布するおそれがあるものと認められる。
前記検甲第四号証によれば、本件書籍は、五ないし一三頁に、本件展覧会についての開催時期、会場、主催者名、主催者の挨拶文等が記載されているが、この部分を削除すれば本件書籍と実質的同一性を維持した一般図書となり得る上、被告の担当者の中には、後記八4認定のとおり、正当化できる事情のない複製権侵害行為をあえて行う者がいると認められるから、本件展覧会が既に終了していることを理由に、被告が本件書籍を印刷、製本及び頒布するおそれがないということはできない。
被告は、本件判決の言渡し後間もなく確実に行われる送達によって、未確定とはいえ、本件書籍への本件絵画の複製が著作権侵害であるとの裁判所の判決による判断を知り、遅くともこれによって本件書籍が著作権侵害行為によって作成された物であるとの情を知ることになる。
また、被告が、その所有する本件絵画を撮影したフィルム、本件絵画の印刷用原版、及び本件書籍を既に廃棄、処分したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、著作権法一一二条一項及び一一三条一項二号に基づく、本件書籍の印刷、製本及び頒布の差止請求(頒布差止については本判決送達時以降の将来請求の限度で)並びに同法一一二条二項に基づく、被告が所有する本件絵画を撮影したフィルム、本件絵画の印刷用原版、及び本件書籍の廃棄請求には理由がある。
『具体的損害額』
、被告は本件書籍を定価二〇〇〇円で約四七万六〇〇〇部販売したから、売上額は約九億五二〇〇万円である。
前記四2のとおり、本件書籍に複製掲載された絵画の総数は八〇点で、絵画の掲載された頁数は九二頁であり、本件絵画の複製画の数は七点で、その掲載頁数は七頁である。
【A】が、世界的にも我が国においても、最も高名で人気の高い画家の一人であることは当裁判所に顕著であり、かつ、バーンズコレクションに属する本件絵画は、従来、広く公開されず、画集への複製が制限されていて、複製には希少価値があることに、本件書籍の紙質、判型、本件絵画の複製の態様等を総合考慮すれば、損害賠償額としての通常の使用料算出のための本件書籍掲載の絵画が全て【A】の作品であると仮定した場合の通常の使用料率は、定価の一〇パーセント相当であると認められる。
したがって、本件書籍への本件絵画の複製の掲載による損害賠償額としての通常使用料相当額は、九億五二〇〇万円の一〇パーセントに本件絵画掲載頁数が絵画掲載頁数全体に占める割合である九二分の七を乗じて算出される七二四万円(一万円未満切捨て)と認める。
弁論の全趣旨により成立が認められる乙第二六号証、乙第二七号証によれば、フランスの複数の美術著作権管理団体から我が国における著作権行使の委任を受けている美術著作権協会が一般的に適用している対価算定方法を本件書籍に当てはめれば対価額は一七万八五〇〇円となることが認められる。この金額と前記認定の金額とは大きな差があるように見えるが、本件書籍の複製、頒布部数が一万部であると仮定して前記認定の方式で使用料を試算すれば一五万二一〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となり、複製、頒布部数が一万部前後までの場合を考えれば、ほとんど差がなく、その程度の部数の複製、頒布を前提とする多くの場合に関する限り、定額であることがむしろ著作権者に有利である。しかし、本件書籍の場合、約四七万六〇〇〇部という格段に多い部数の複製権侵害が行われたことに対する損害算定のために通常の使用料を求めているのであるから、前記認定の損害額こそ事案に応じた相当な額である。
入場券及び割引引換券について
前記のとおり、被告は本件絵画三を本件展覧会の入場券及び割引引換券に複製掲載して複製権を侵害したものであり、また、弁論の全趣旨により、本件展覧会の有料入場者数は約九五万人であると認められるから、入場券又は割引引換券は少なくとも右枚数複製、頒布されたものと認められる。
原告は、入場券及び割引引換券と新聞への掲載とを併せて、入場料収入の一パーセント相当額が通常使用料相当額である旨主張し、甲第五七号証(原告本人の陳述書)には、フランスでは右主張のような損害賠償金の請求をする旨の陳述記載がある。しかし、右記載は、その請求が裁判所により認容されるとも、和解交渉で相手方に受け入れられるとも述べていないのであり、しかも、フランスにおける請求額が我が国における認容額の基準となるべき合理的な理由はない。
そして、右行為の性質、内容、本件展覧会の規模、複製、頒布枚数等の事情を考慮して、損害賠償額としての、入場券及び割引引換券についての本件絵画三の通常の使用料相当額は三〇万円と認める。
新聞への掲載について
前記のとおり、被告は、本件絵画二を平成五年一一月五日付け讀賣新聞に、本件絵画三を平成五年一一月三日付け及び平成六年一月二二日付け各同新聞に、本件絵画四を平成六年一月一日付け同新聞に、それぞれ複製掲載し、各絵画について複製権を侵害したものである。
前記のとおり、原告は、入場券及び割引引換券と新聞への掲載とを併せて、入場料収入の一パーセント相当額が通常使用料相当額である旨主張するが、これを認めるに足りない。
そして、右行為の性質、内容、被告新聞の発行規模(被告の発行する讀賣新聞の発行部数が数百万部以上であることは当裁判所に顕著である。)等の諸般の事情を考慮して、損害賠償額としての、新聞への右各掲載についての通常の使用料相当額は各四〇万円と認めるから、その総額は、一六〇万円となる。
本件複製画について
被告は、本件絵画三についての本件複製画を、定価一五万円のものについて五点、定価四万五〇〇〇円のものについて一五点販売し、故意に複製権を侵害したものである。
原告は、右行為は悪質であるから二〇〇万円が通常使用料相当額である旨主張し、甲第五七号証(原告本人の陳述書)には、フランスでは右主張のような損害賠償金の請求をする旨の陳述記載がある。しかし、右記載は、その請求が裁判所により認容されるとも、和解交渉で相手方に受け入れられるとも述ベていないので、原告の要求に過ぎないから、これだけでは原告主張の事実を認めるに足りず、他にこれを認める証拠はない。
また、原告は、【A】が右絵画を制作するのに要する知的労力や費用を金銭的に評価した絵画の値段を損害と考えるべきであると主張するが、絵画の価額を直ちにその著作権侵害による損害と認めることはできない。
そして、右行為の性質、内容、とりわけこのような行為は許諾契約を締結することなしに正当化する事情はおよそ考えられないのに、契約もなくあえて複製権侵害行為を行っていること(被告は、本件複製画についても著作権者から許諾を得たと考えた旨主張するが、その許諾契約の内容も、その契約文言が本件複製画の製造販売をも含むものと解されてもしかたのないものであったことも認めるに足りる証拠はない。)等の諸般の事情を考慮して、損害賠償額としての、本件複製画についての通常の使用料相当額は、定価一五万円のものについて各一〇万円、定価四万五〇〇〇円のものについて各三万円であると認めるから、その総額は九五万円となる。
損害の合計額は、一〇〇九万円となる。
結論
したがって、原告の本件請求は、損害賠償金一〇〇九万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であり不法行為の後である平成六年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、並びに前記七で理由があるものと判断した差止、廃棄請求を求める限度で理由があるからこれを認容する。
★この判決の注目点は、なんといってもその高額な賠償金でしょう。原告は「ピカソの相続人」で被告は「読売新聞社」ですから十分に争っても訴訟費用は何ともないと思いますが、これだけの賠償金が著作権侵害でとれることになると、予防法学は重要性を増していきますね。
また、引用する側には「著作物性」がないと引用できないとの判示には違和感を覚えます。非著作物でも絵画などを引用して使いたい場合があるのにこれでは著作物の利用を狭め大げさにいうと文化の発展に資することにならないのではないでしょうか。
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