■平成18年著作権法の改正

趣旨:著作物の適切な保護と活用を図り、「知的財産戦略」を推進するため、緊急の課題であるIPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱い等に関する所要の法整備を行う。

「放送の同時再送信の円滑化」については、2007年1月11日から施行。「時代の変化に対応した権利制限等」、「著作権等保護の実効性の確保」については、2007年7月1日に施行。

1 「放送の同時再送信の円滑化」

これまでIPマルチキャスト放送(電気通信役務利用放送法に基づくIPマルチキャスト技術を用いた有線電気通信の送信)による放送は「通信」行為に分類され、地上波などの番組をIP放送事業者が受信し、リアルタイムに再配信するには、事前に俳優やレコード会社の許諾を得ることが必要で手続きが煩雑だった。
IPマルチキャスト放送は、放送される番組が不特定の受信者の手元に同時に届くものではなく、求めに応じて個別に送信されるので、「インターネット送信」と同様に「自動公衆送信」の概念で位置づけられ、著作権法上の「放送」には該当しないものである。
そこで法改正により著作権隣接権者に対する許諾はCATVと同様に不要となり、2011年の地上デジタル放送への全面移行に伴って難視聴地域での活用が想定されるIP放送の円滑な普及が期待される。
つまり、具体的には実演家やレコード製作者の許諾権をIPマルチキャスト放送による同時再送信に対しては制限し、「補償金」の制度をもって運用できるように改正し、有線放送による同時再送信については、これまで、実演家やレコード製作者が無権利であったのに対し、これに「報酬請求権」を付与することで、有線放送とIPマルチキャスト放送とのバランス調整実施した。
※なお、著作者の許諾権は制限されていません。
★条文関係
○(第三十八条関係)
放送される著作物等は、非営利かつ無料の場合には、専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として、自動公衆送信することができることとすること。
○(第九十四条の二関係)
放送される実演を有線放送した有線放送事業者は、実演家に報酬を支払わなければならないこととすること。
○(第九十五条及び第九十七条関係)
商業用レコードを用いた放送又は有線放送を受信して放送又は有線放送を行った放送事業者等は、実演家又はレコード製作者に二次使用料を支払わなければならないこととすること。
○(第百二条関係)
放送される実演又はレコードは、専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として、送信可能化することができることとするとともに、当該送信可能化を行う者は、実演家又はレコード製作者に補償金を支払わなければならないこととすること。

2「時代の変化に対応した権利制限等」

様々な社会のニーズ等を踏まえて、以下の利用行為について、著作権者に無許諾で行えるようにする。
ア 視覚障害者に対する「録音図書のインターネット送信」
イ 「特許審査」等における文献の複製
ウ 「薬事行政手続」における文献の複製
エ 機器の「保守・修理」等におけるバックアップのための複製
★条文関係
○(第二条関係)
同一構内の無線通信設備による送信について、公衆送信の範囲から除外すること。
○ (第三十七条関係)
視覚障害者情報提供施設等は、公表された著作物について、専ら視覚障害者の用に供するために、録音図書を用いて自動公衆送信することができることとすること。
○ (第四十二条関係)
著作物は、特許や薬事等に関する審査等の手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができることとすること。
○ (第四十七条の三関係)
記録媒体を内蔵する機器の記録媒体に記録されている著作物は、必要と認められる限度における保守若しくは修理又は当該機器の欠陥等による交換のため、一時的に複製することができることとすること。

3「著作権等保護の実効性の確保」

先の通常国会で行われた産業財産権制度との調和を踏まえて、輸出行為の取締りと罰則の強化を図る。これまで模倣品・海賊版の「輸入」が国際取引に関連した取締対象だったが、2007年1月からは「輸出」も対象となる。
○ 輸出行為の取締り
著作権等の侵害品の「輸出」及び「輸出を目的とする所持」を取締りの対象とする。
★条文関係
○(第百十三条関係)
著作権等を侵害する行為によって作成された物を、情を知って業として輸出し又は輸出目的で所持する行為を侵害とみなす行為とすること。
○(第百十九条及び第百二十四条関係)
著作権、出版権及び著作隣接権の侵害に係る刑事罰について、懲役刑及び罰金刑の上限を引き上げるとともに、法人処罰に係る罰金刑の上限を引き上げること。
○(第百二十四条関係)
秘密保持命令違反に係る刑事罰について、法人処罰に係る罰金刑の上限を引き上げること。
<個人罰則> 懲役刑: 5年以下から10年以下、罰金刑: 500万円以下から1,000万円以下
<法人罰則> 1億5,000万円以下から3億円以下

■平成19年改正「映画の盗撮の防止に関する法律」

「映画の盗撮防止」

著作権法第30条第1項では,私的使用を目的とするときは,例外的に著作権者の許諾なく著作物の複製ができることとされていますが,映画の盗撮の場合については,この規定は適用されません。映画の盗撮により著作権を侵害した者は,私的使用目的で行った場合であっても,罰則(10年以下の懲役,又は1,000万円以下の罰金又はこれらの併科)の対象となります。
なお,この措置は,日本国内における最初の有料上映後8月を経過した映画については適用されません。(第4条関係)

■「平成21年の著作権法改正」

1.国会図書館法改正に伴う改正
(1)国立国会図書館法によるインターネット資料の収集のための複製(第42条の3)
(2)複製物の目的外使用等(第49条)
(3)著作隣接権の制限(第102条)

2.平成21年通常国会での改正

(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置

インターネット情報の検索サービスを実施するための複製等に係る権利制限(法第47条の6,令第7条の5,規則第4条の4関係)
権利者不明の場合の利用の円滑化
[1] 著作隣接権者不明等の場合の裁定制度の創設(法第103条関係)
[2] 裁定申請中の利用を認める新制度の創設(法第67条の2,法第103条関係)
[3] 権利者捜索のために利用者が支払うべき「相当な努力」の内容の明確化(法第67条第1項,令第7条の7,告示関係)
ア 広く権利者情報を掲載している名簿,名鑑,検索サイト等を閲覧すること
イ 広く権利者情報を保有している著作権等管理事業者,出版社,学会等に照会すること
ウ [1]日刊新聞紙への掲載又は[2]社団法人著作権情報センターのウェブサイトへ30日以上の期間継続して掲載することにより,公衆に対して権利者情報の提供を求めること
国会図書館における所蔵資料の電子化(複製)に係る権利制限(法第31条第2項関係)
インターネット販売等での美術品等の画像掲載に係る権利制限
美術又は写真の著作物の譲渡等の申出のために行う商品紹介用画像の掲載等(複製及び自動公衆送信)について,著作権者の利益を不当に害しないための政令で定める措置(画像を一定以下の大きさ・精度にすること等)を講じるとの条件の下で,権利制限が認められました。(法第47条の2,令第7条の2,規則第4条の2関係)
情報解析研究のための複製等に係る権利制限(法第47条の7関係)
送信の効率化等のための複製に係る権利制限(法第47条の5,令第7条の3,令第7条の4,規則第4条の3関係)
電子計算機利用時に必要な複製に係る権利制限(法第47条の8関係)

(2)違法な著作物の流通抑止のための措置

著作権等侵害品の頒布の申出の侵害化(法第113条第1項第2号関係)
私的使用目的の複製に係る権利制限規定の範囲の見直し
著作権等を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を,その事実(=著作権等を侵害する自動公衆送信であること)を知りながら行う場合は,私的使用目的の複製に係る権利制限の対象外とされました。ただし,罰則は適用しないこととされています。(法第30条第1項第3号関係)
(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置(法第37条第3項,法第37条の2,令第2条,令第2条の2,規則第2条の2関係)
(4)その他  登録原簿の電子化(法第78条第2項関係)

■「平成24年の著作権法改正」

(1)いわゆる「写り込み」(付随対象著作物の利用)等に係る規定の整備
(2)国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信等に係る規定の整備
(3)公文書等の管理に関する法律等に基づく利用に係る規定の整備
(4)著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備
(5)違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定の整備

1.著作権等の制限規定の改正(著作物の利用の円滑化)

デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、(1)著作物の利用態様の多様化等が進む一方、(2)著作物の違法利用・違法流通が常態化している中、以下のとおり規定を整備。
(1)の観点から、著作物等の利用を円滑化するため、いわゆる「写り込み」等に係る規定等を整備。
(2)の観点から、著作権等の実効性確保のため、技術的保護手段に係る規定等を整備。
改正の趣旨
①いわゆる「写り込み」(付随対象著作物としての利用)等に係る規定の整備
下記の著作物の一定の利用行為につき、著作権等の侵害にならないとする規定を整備。
○ 付随対象著作物としての利用(第30条の2関係)
(例) 写真撮影等において本来の対象以外の著作物が付随して対象となる、いわゆる「写り込み」
○ 許諾を得るための検討等の過程に必要と認められる利用(第30条の3関係)
(例) 許諾前の資料の作成
○ 技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用(第30条の4関係)
(例)録音・録画に関するデジタル技術の研究開発・検証のための複製等
○ 情報通信の技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用(第47条の9関係)
(例)サーバ内で行われるインターネット上の各種複製
② 国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信に係る規定の整備
国立国会図書館は、絶版等資料について、図書館等に対して自動公衆送信を行うことができることとするとともに、図書館等は、利用者の求めに応じて、国立国会図書館から自動公衆送信された絶版等資料の一部複製を行うことができることとする。
③公文書等の管理に関する法律等に基づく利用に係る規定の整備
国立公文書館の長等は、公文書等の管理に関する法律等の規定により、著作物等を公衆に提
供すること等を目的とする場合には、必要と認められる限度において、当該著作物等を利用できる
こととする。

2.著作権等の保護の強化

①現行法上、著作権等の技術的保護手段の対象となっている保護技術(VHSなどに用いられて
いる「信号付加方式」の技術。)に加え、新たに、暗号型技術(DVDなどに用いられている技術)についても技術的保護手段として位置づけ、その回避を規制するための規定を整備。②違法ダウンロード刑事罰化に係る規定の整備(内閣提出法案に対する修正)
②私的使用の目的で、有償で提供等されている音楽・映像の著作権等を侵害する自動公衆送信を受信して行う録音・録画を、自らその事実を知りながら行うこと(違法ダウンロード)により、著作権等を侵害する行為について罰則を設ける等の規定を整備。
施行期日:平成25年1月1日(1③、2については平成24年10月1日、2②に関して国民に対する啓発等について定めた附則の規定については公布日(平成24年6月27日)。)

■平成26年著作権法改正

1.近年、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、電子書籍が増加する一方、出版物が違法に複製され、インターネット上にアップロードされた海賊版被害が増加していることから、紙媒体による出版のみを対象とした出版権制度を見直し、電子書籍に対応した出版権の整備を行う。

(1) 出版権の設定(第79条関係)
著作権者は、著作物について、以下の行為を引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。
① 文書又は図画として出版すること(記録媒体に記録された著作物の複製物により頒布することを含む) 【紙媒体による出版やCD-ROM等による出版】
② 記録媒体に記録された著作物の複製物を用いてインターネット送信を行うこと
【インターネット送信による電子出版】

(2) 出版権の内容(第80条関係)
出版権者は、設定行為で定めるところにより、その出版権の目的である著作物について、次に掲げる権利の全部又は一部を専有する。
① 頒布の目的をもって、文書又は図画として複製する権利(記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利を含む)
② 記録媒体に記録された著作物の複製物を用いてインターネット送信を行う権利

(3) 出版の義務・消滅請求(第81条、第84条関係)
① 出版権者は、出版権の内容に応じて、以下の義務を負う。ただし、設定
2.また、視聴覚的実演に関する国際的な保護を強化するため、視聴覚的実演に関する北京条約の実施に伴う規定の整備を行う。

■平成30年著作権法改正

平成30年5月18日に成立,一部の規定を除いて,平成31年1月1日に施行

(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備

我が国の企業の法令順守意識,国民の著作権に対する理解の度合い,訴訟制度,立法府と司法府の役割分担の在り方,罪刑法定主義との関係といった観点を総合すれば,フェアユース規定のような規定ではなく,明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによって対応することが最も望ましい。

具体的には,通常権利者の利益を害しないと考えられる行為類型(下記[1]及び[2])と,権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型(下記[3])について,それぞれ適切な柔軟性を持たせた規定を整備する。

[1]著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4関係)

著作物は,技術の開発等のための試験の用に供する場合,情報解析の用に供する場合,人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,その必要と認められる限度において,利用することができることを規定しています。

これにより,例えば人工知能(AI)の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

なお,この規定の整備に伴い,現行第30条の4及び第47条の7は新しい第30条の4に整理・統合することとしました。

[2]電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(第47条の4関係)

電子計算機における利用に供される著作物について,当該利用を円滑又は効率的に行うために当該利用に付随する利用に供することを目的とする場合(第1項)や,電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し,又は当該状態に回復することを目的とする場合(第2項)には,その必要と認められる限度において,利用することができることを規定しています。

これにより,例えばネットワークを通じた情報通信の処理の高速化を行うためにキャッシュを作成する行為や,メモリ内蔵型携帯音楽プレイヤーを交換する際に,一時的にメモリ内の音楽ファイルを他の記録媒体に複製する行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

なお,この規定の整備に伴い,現行第47条の4,第47条の5,第47条の8及び第47条の9は新しい第47条の4に整理・統合することとしました。

[3]電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(第47条の5関係)

電子計算機を用いて,情報を検索し又は情報解析を行い,及びその結果を提供する者は,公表された著作物又は送信可能化された著作物について,その行為の目的上必要と認められる限度において,当該行為に付随して,軽微な利用を行うこと等ができることとすることを規定しています。

これにより,例えば特定のキーワードを含む書籍を検索し,その書誌情報や所在に関する情報と併せて,書籍中の当該キーワードを含む文章の一部分を提供する行為(書籍検索サービス)や,大量の論文や書籍等をデジタル化して検索可能とした上で,検証したい論文について,他の論文等からの剽窃の有無や剽窃率,剽窃箇所に対応するオリジナルの論文等の本文の一部分を表示する行為(論文剽窃検証サービス)等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

この他,本条の趣旨が妥当する新たなニーズが発生した場合には,政令で定めることにより当該ニーズに係る行為を権利制限の対象として追加することができることとしました。

なお,この規定の整備に伴い,現行第47条の6は新しい第47条の5に整理・統合することとしました。

(2)教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備

学校等の教育の質の向上や教育機会の充実等に資するよう,ICTを活用した教育における著作物等の利用の円滑化を図るため,学校その他の教育機関における権利制限規定(第35条)において,現在権利制限の対象となっているコピー(複製)や遠隔合同授業におけるネットワークを通じた送信(公衆送信)に加えて,新たに遠隔合同授業のための公衆送信以外の公衆送信等についても広く対象とするとともに,今回新たに権利制限の対象となる公衆送信について権利者に補償金請求権を付与することとしています。

これにより,例えば学校等の授業や予習・復習用に,教師が他人の著作物を用いて作成した教材を生徒の端末に公衆送信する行為等について,文化庁長官が指定する単一の団体への補償金支払を条件として,権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備

障害者の情報へのアクセス機会の向上のため,視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことを認める権利制限規定(第37条第3項)において,音訳等を提供できる障害者の範囲について,現行法で対象として明示されている視覚障害や発達障害等のために視覚による表現の認識に障害がある者に加え,新たに,手足を失ってしまった方々など,いわゆる肢体不自由等の方々が対象となるよう規定を明確にしました。また,権利制限の対象とする行為について,現行法で対象となっているコピー(複製),譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて,新たにメール送信等を対象とすることとしています。これにより,例えば肢体不自由で書籍等を保持できない方のために音訳図書を作成・提供することや,様々な障害により書籍等を読むことが困難な者のために作成した音訳データをメール送信すること等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等
我が国の有する文化資料を適切に収集・保存し,またそれらの効果的な活用を促進することで我が国の文化創造の基盤となる知的インフラの強化に貢献するため,アーカイブの利活用促進に関する以下の整備を行います。

[1]国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送信(第31条関係)

絶版等の理由により一般に入手困難な資料で,デジタル化した資料を,国立国会図書館が他の図書館等に送信することができる図書館送信サービスについて,日本文化の発信等の観点から,外国の図書館等の施設に対しても送信できることを規定しています。これにより,日本研究を行っている外国の図書館等に貴重な資料を提供できることとなるものと考えられます。

[2]作品の展示に伴う美術・写真の著作物の利用(第47条関係)

技術進歩に伴う見直しとして,美術館等において,展示作品の解説や紹介を目的とする場合には,必要と認められる限度において,小冊子に加えて,タブレット端末等の電子機器へ掲載できること等を規定(第1項,第2項)しています。

これにより,例えば,会場で貸出される電子機器を用いて,より作品の細部を拡大して制作手法を解説することや,展示方法の制約により観覧者が目視しづらい立体展示物の底面や背面の造形を解説すること等が権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

また,同様に近年の情報通信技術の発展により,美術館等に行く際に,施設のウェブサイトやメールマガジン等で展示作品の情報を調べることが一般的になっていることを踏まえ,展示作品に関する情報を広く一般公衆に提供することを目的とする場合には,必要と認められる限度において当該作品に係る著作物のサムネイル画像(作品の小さな画像)をインターネットで公開できること等を規定(第3項)しています。

[3]著作権者不明等著作物の裁定制度の見直し(第67条等関係)

著作権者不明等著作物の裁定制度は,著作物の権利者が不明等の場合に,文化庁長官の裁定を受け,かつ通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託することで,当該著作物を利用することができるものです。今般の改正では,補償金等の支払を確実に行うことが期待できる国や地方公共団体等について,事前の供託を求めないものとし,権利者と連絡をすることができることになった際に,事後的に権利者に補償金を支払うことを認めることを規定(第2項)しています。同様に,申請中利用に当たって供託をすることが求められる担保金も,国や地方公共団体等については免除し,権利者が現れた場合に,利用に係る補償金を直接権利者に支払えば足りることとしています(第67条の2)。

(5)施行期日
この法律は,上記(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定,(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定,(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定に係る改正事項については平成31年1月1日に,上記(2)教育の情報化に対応した権利制限規定に係る改正事項については公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日に,それぞれ施行される。

■TPPの影響を受けた平成30年著作権法改正

・環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)

環太平洋パートナーシップ協定(以下「TPP12協定」という。)は平成27年10月に大筋合意に至り,平成28年2月に署名されました。これを受け,第192回国会において「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(以下「TPP12整備法」という。)が平成28年12月9日に成立し,同月16日に平成28年法律第108号として公布されました。

※オーストラリア,ブルネイ,カナダ,チリ,日本,マレーシア,メキシコ,ニュージーランド,ペルー,シンガポール,米国及びベトナム。

TPP12整備法は,著作権法を含む11法の改正を内容とするものですが,一部を除きTPP12協定が日本国について効力を生ずる日から施行することとされていました。

・環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について

平成29年1月,米国がTPP12協定の離脱を表明したため,米国以外の11か国による交渉が行われ,平成30年3月8日に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(以下「TPP11協定」という。)が署名されました。これを受け,第196回国会において「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(以下「TPP11整備法」という。)が平成30年6月29日に成立し,同年7月6日に平成30年法律第70号として公布されました。

改正の概要
(1)著作物等の保護期間の延長(第51条第2項,第52条第1項,第53条第1項,第101条第2項第1号及び第2号関係)
著作物等の保護期間について,改正前の著作権法においては,著作物の保護期間の終期は原則として著作者の死後50年とされており(映画の著作物については公表後70年まで),実演やレコードについても,それぞれの起算点から50年とされていましたが,今回の改正により,著作物,実演及びレコードの保護期間の終期を,それぞれの起算点から70年とすることとしています。

(2)著作権等侵害罪の一部非親告罪化(第123条第2項及び第3項関係)
改正前の著作権法においては,著作権等を侵害する行為は刑事罰の対象となるものの,これらの罪は親告罪とされており,著作権者等の告訴がなければ公訴を提起することができませんでしたが,今回の改正により,著作権等侵害罪のうち,以下の全ての要件に該当する場合に限り,非親告罪とし,著作権等の告訴がなくとも公訴を提起することができることとしています。

[1]侵害者が,侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的又は有償著作物等(権利者が有償で公衆に提供・提示している著作物等)の販売等により権利者の得ることが見込まれる利益を害する目的を有していること
[2]有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡若しくは公衆送信する侵害行為又はこれらの行為のために有償著作物等を複製する侵害行為であること
[3]有償著作物等の提供又は提示により権利者の得ることが見込まれる「利益が不当に害されることとなる場合」であること
これにより,例えばいわゆるコミックマーケットにおける同人誌等の二次創作活動については,一般的には,原作のまま著作物等を用いるものではなく,市場において原作と競合せず,権利者の利益を不当に害するものではないことから,上記[1]~[3]のような要件に照らせば,非親告罪とはならないものと考えられる一方で,販売中の漫画や小説の海賊版を販売する行為や,映画の海賊版をネット配信する行為等については,非親告罪となるものと考えられます。

(3)著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備(アクセスコントロールの回避等に関する措置)(第2条第1項第21号,第113条第3項,第119条第1項,第120条の2第1項第1号及び第2号関係)
改正前の著作権法においては,アクセスコントロール機能のみを有する保護技術については,技術的保護手段の対象とはされていませんでしたが,今回の改正により,従前の技術的保護手段に加え,アクセスコントロール機能のみを有する保護技術について,新たに「技術的利用制限手段」を定義した上で,技術的利用制限手段を権原なく回避する行為について,著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き,著作権等を侵害する行為とみなして民事上の責任を問いうることとするとともに,技術的利用制限手段の回避を行う装置やプログラムの公衆への譲渡等の行為を刑事罰の対象とすることとしています。

(4)配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与(第95条第1項関係)
改正前の著作権法においては,商業用レコード(市販の目的をもって製作されるレコードの複製物)を用いて放送や有線放送が行われた場合,実演家及びレコード製作者は放送事業者等に対し二次使用料請求権を有することとしており,CD等の商業用レコードを介さずインターネット等から直接配信される音源(いわゆる「配信音源」)を用いて放送や有線放送が行われた場合においては,二次使用料請求権は発生しませんでしたが,今回の改正により,実演家及びレコード製作者に対し,配信音源の二次使用について,商業用レコードと同様に二次使用料請求権を付与することとしています。

(5)損害賠償に関する規定の見直し(第114条第4項関係)
著作権等侵害に対する損害賠償請求について立証負担の軽減を行うため,現行規定に加えて,侵害された著作権等が著作権等管理事業者により管理されている場合には,著作権者等は,当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を損害額として賠償を請求することができることとしています。

(6)施行期日
これらの改正事項については,TPP11協定が日本国について効力を生ずる日(※)から施行されることとなっています。

(※)TPP11協定は,同協定の署名国のうち少なくとも6又は半数のいずれか少ない方の国が国内法上の手続を完了したことを寄託者に通報してから60日後に効力を生ずることとされています(TPP11協定第3条)。

令和2年 著作権法改正

(1)インターネット上の海賊版対策の強化

① リーチサイト対策【第113条第2項~第4項、第119条第2項第4号・第5号、第120条の2第3号等関係】
侵害コンテンツへのリンク情報等を集約してユーザーを侵害コンテンツに誘導する「リーチサイト」や「リーチアプリ」を規制するものです。

具体的には、悪質なリーチサイト・リーチアプリを「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの」及び「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるもの」として規定した上で、リーチサイト運営行為及びリーチアプリ提供行為を刑事罰(5年以下の懲役等:親告罪)の対象とするとともに、リーチサイト・リーチアプリにおいて侵害コンテンツへのリンク等を提供する行為を、著作権等を侵害する行為とみなし、民事措置及び刑事罰(3年以下の懲役等:親告罪)の対象としています。

② 侵害コンテンツのダウンロード違法化【第30条第1項第4号・第2項、第119条第3項第2号・第5項等関係】
違法にアップロードされた著作物のダウンロード規制(私的使用目的であっても違法とする)について、対象を音楽・映像から著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)に拡大するものです。

その際、海賊版対策としての実効性確保」と「国民の正当な情報収集等の萎縮防止」のバランスを図る観点から、規制対象を、違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合のみとするとともに、(ⅰ)スクリーンショットを行う際の写り込み(下記(2)参照)、(ⅱ)漫画の1コマ~数コマなど「軽微なもの」、(ⅲ)二次創作・パロディ、(ⅳ)「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」のダウンロードを規制対象から除外しています。また、刑事罰については、特に悪質な行為に限定する観点から、正規版が有償で提供されている著作物を反復・継続してダウンロードする場合に限定しています。

このほか、本法律の附則では、国民への普及啓発・教育の充実、関係事業者による適法サイトへのマーク付与の推進、刑事罰の運用に当たっての配慮等について規定し、運用面からも国民の懸念・不安等に対応していくこととしています。

(2)その他の改正事項

① 写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大【第30条の2関係】
スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や動画投稿・配信プラットフォームの発達等の社会実態の変化に対応して、写り込みに係る権利制限規定の対象範囲を拡大するものです。

具体的には、(ⅰ)「写真の撮影」「録音」「録画」に限定されていた対象行為を、複製や伝達行為全般(例:スクリーンショット、生配信、CG化)に拡大した上で、(ⅱ)創作性が認められない行為を行う場面(例:固定カメラでの撮影)における写り込みも対象とし、(ⅲ)メインの被写体に付随する著作物であれば、分離が困難でないもの(例:子供に抱かせたぬいぐるみ)も対象とすることとしており、日常生活等において一般的に行われる行為に伴う写り込みが幅広く認められることとなります。一方で、従来からの付随性・軽微性等の要件は維持するとともに、新たに「正当な範囲内」という要件を規定することで、濫用的な利用や権利者の市場を害するような利用を防止しています。

② 行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係)【第42条第2項関係
従来から、特許審査手続等においては権利者に許諾なく必要な文献等の複製等ができることとしていたところ、(ⅰ)地理的表示法(GI法)に基づく地理的表示の登録、(ⅱ)種苗法に基づく植物の品種登録についても、審査が迅速・的確に行われるよう、権利者に許諾なく必要な文献等の複製等ができるようにするものです。また、今後、同様の措置が必要な行政手続の存在が明らかとなった場合に柔軟に対応できるよう、政令により、随時手続を追加することを可能としています。

③ 著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入【第63条の2関係】
従来は、著作権者から許諾を受けて著作物を利用しているライセンシーは、著作権が譲渡された場合、著作権の譲受人などに対して著作物を利用する権利(利用権)を対抗できず、利用を継続できないおそれがありました。このような事態を解消し、ライセンシーが安心して利用を継続することができるよう、利用権を著作権の譲受人などに対抗できる制度を導入するものです(特許法における通常実施権の場合と同様、対抗するために登録等の要件を備えることは不要です)。

④ 著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化【第114条の3関係】
著作権侵害訴訟における書類提出命令をより実効的なものとする観点から、手続の強化を図るものです。

具体的には、平成30年の特許法等改正と同様、(ⅰ)裁判所が書類提出命令の可否について適切な判断ができるよう、命令を発する必要性の有無を判断する前の段階で、実際の書類を見ることができるようにするとともに、(ⅱ)専門性の高い書類等について、実際の書類を見て判断する際に専門委員(大学教授など)のサポートを受けられるようにしています。

⑤ アクセスコントロールに関する保護の強化【第2条第1項第20号・第21号、第113条第7項、第120条の2第4号等関係】
コンテンツの不正利用を防止する「アクセスコントロール」の保護に関して、シリアルコードを利用したライセンス認証など最新の技術に対応できるよう規定の整備を行うものです。

具体的には、平成30年の不正競争防止法の改正と同様、アクセスコントロールに関して、(ⅰ)定義規定の改正(ライセンス認証など最新の技術が保護対象に含まれることを明確化)、(ⅱ)ライセンス認証などを回避するための不正なシリアルコードの提供等に対する規制(著作権等の侵害とみなす行為に追加)を行うこととしています。

⑥ プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラム登録特例法)
【プログラム登録特例法第4条、第26条等関係】
プログラムの著作物に係る登録制度に関して、関係者のニーズや、文化庁長官の指定する「指定登録機関」(一般財団法人ソフトウェア情報センター)からの要請を踏まえ、規定の整備を行うものです。

具体的には、(ⅰ)訴訟等での立証の円滑化に資するよう、著作権者等が自ら保有するプログラムの著作物(訴訟等で係争中のもの)と、事前に登録をしたプログラムの著作物が同一であることの証明を請求できる制度を導入する(これにより、登録による事実関係(例:創作年月日)の推定効果を確実に享受できるようになる)とともに、(ⅱ)国及び独立行政法人が登録を行う場合の手数料免除規定を廃止することとしています。

令和3年 著作権法改正

(1)図書館関係の権利制限規定(※)の見直し
(※)権利制限規定:著作権者の権利を制限し,著作権者の許諾なく著作物を利用することができる例外的な場合を定めた規定

①国立国会図書館による絶版等資料の個人向けのインターネット送信【第31条第4項(第2条改正後:第31条第8項)等関係】

改正前の第31条第3項では,国立国会図書館は,デジタル化した絶版等資料(絶版その他これに準ずる理由により入手困難な資料)のデータを,権利者の許諾なく,他の図書館等にインターネット送信し,当該図書館等においてその一部分を複製して利用者に提供することが可能となっています。

この点,同項では,絶版等資料のデータは他の図書館等にしか送信できないこととなっており,国民はその図書館等に足を運ばないとそのデータにアクセスすることができないところ,感染症対策等のために図書館等が休館している場合や,病気や障害等により図書館等まで足を運ぶことが困難な場合,そもそも近隣に図書館等が存在しない場合など,図書館等への物理的なアクセスができない場合には,絶版等資料へのアクセス自体が困難となるなどの課題がありました。

そこで,従来は国立国会図書館から他の図書館等に送信され,物理的に当該図書館等に来館した利用者のみが閲覧し,コピーを得ることが可能とされていた絶版等資料を,国立国会図書館が,一定の要件の下で直接利用者に対しても権利者の許諾なくインターネット送信することを可能とすることとしています。この際,利用者においては,(ⅰ)インターネット送信される当該資料を自ら利用するために必要と認められる限度において複製(プリントアウト)することと,(ⅱ)インターネット送信される当該資料を非営利・無料等の要件の下でディスプレイ等を用いて公衆に伝達することを可能としています。

②図書館等による図書館資料の公衆送信【第31条第2項等関係】

改正前の第31条第1項(第1号)では,国立国会図書館又は公共図書館・大学図書館等の図書館等は,営利を目的としない事業として,調査研究を行う利用者の求めに応じ,公表された著作物の一部分を一人につき一部提供する場合に限り,権利者の許諾なく図書館資料を複製して提供することが可能となっています。

この点,同項では,複製及び複製物の提供(譲渡)しか許されておらず,図書館等から利用者に対して,FAXやメール等による送信(公衆送信)を行うことはできないため,複製物の入手までに時間がかかるなど,デジタル・ネットワーク技術の発展を踏まえた国民の情報アクセスの確保等が十分に図られていないという課題がありました。

そこで,従来紙媒体での提供が可能とされていた図書館資料のコピーを権利者の許諾なく公衆送信することを可能としています。もっとも,図書館等以外の場所で国民が簡易かつ迅速に利便性の高い形で資料のコピーを入手・閲覧することができるようになることで,権利者に与える影響が大きくなるため,権利者保護を図る観点から,以下の(ⅰ)~(ⅳ)の措置を講ずることとしています。

(ⅰ)送信主体を「特定図書館等」に限定【第31条第3項関係】

送信主体となる図書館等については,第31条第1項で定める「図書館等」のうちデータの目的外利用を防止するために適切な人的・物的管理体制等が整えられているもの(特定図書館等)に限定することとしています。

(ⅱ)不正拡散を防止・抑止するための措置【第31条第2項第2号関係】

公衆送信を受信した利用者が不正にデータを拡散させることがないよう,図書館等からの送信時に不正な拡散を防止・抑止するための措置を講ずることを要件としております。

(ⅲ)「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」の制限(正規市場との競合防止)【第31条第2項ただし書関係】

今回の公衆送信によって,正規の電子配信サービスの市場等を阻害し,権利者の利益を不当に害することのないよう担保するため,「著作物の種類…及び用途並びに当該特定図書館等が行う公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には,公衆送信を行うことができない旨のただし書を設けています。

(ⅳ)補償金の支払い義務【第31条第5項等関係】

今回の送信サービスの実施に伴って権利者が受ける不利益を補償するという観点から,図書館等の設置者が権利者に対して一定の補償金を支払わなければならないこととしています(なお,実際の補償金負担は,基本的に当該サービスの受益者である図書館等の利用者に負担していただくことが想定されています。)。

(2)放送番組のインターネット同時配信等の権利処理の円滑化

⓪対象となる「放送同時配信等」の定義

放送番組又は有線放送番組の,同時配信,追っかけ配信,一定期間の見逃し配信が対象になります。

詳細には,今回の措置の対象となる「放送同時配信等」を,放送番組又は有線放送番組(以下単に「放送番組」という。)の自動公衆送信のうち,以下の要件を満たすものとしています。

(ⅰ)放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(一週間を超える場合には,一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われること。

(ⅱ)放送番組の内容を変更しないこと。

(ⅲ)放送番組のダウンロードの防止・抑止する措置が講じられていること。

なお,権利者の利益を不当に害するサービス等は文化庁長官が総務大臣と協議をして除外することができることとしています。

①権利制限規定の拡充【第34条第1項等関係】

学校教育番組の放送等や国会等での演説等の利用など,現行の権利制限規定の中には,放送の公益性を踏まえ,放送を対象にした規定があります。今回の改正では,放送同時配信等については,放送と同視し得る利用形態であるため,これらの権利制限規定の対象に含めることとしています。具体的には,放送に関する権利制限規定(第34条第1項,第38条第3項,第39条第1項,第40条第2項,第44条,第93条)について,全て放送同時配信等にも適用できることとしています。

なお,第38条第3項については,多種多様な形態での公の伝達を認める規定であり,特に権利者に与える影響が大きいと考えられることから,「同時配信」及び「追っかけ配信」を対象としています(「見逃し配信」は対象外)。

②許諾推定規定の創設【第63条第5項関係】

放送番組又は有線放送番組には多種多様かつ大量の著作物等が利用されているところ,放送・放送同時配信等までの時間が限られている場合等には,放送事業者が関係する全ての権利者との間で,どこまでの範囲で利用するかを明確にした上で契約を締結するのは相当の困難が伴うことが想定されます。その結果、仮に権利者が内心では放送同時配信等を行って構わないと考えている場合でも、明確な許諾がないことを理由に「フタかぶせ」等が行われるおそれがあります。

このため,放送と放送同時配信等の権利処理のワンストップ化を図る観点から,著作物の放送又は有線放送及び放送同時配信等を許諾することができる者が,放送同時配信等を業として行っている放送事業者のうち、その事実を周知するための措置として,文化庁長官が定める方法によって,放送同時配信等の実施状況に関する情報として文化庁長官が定める情報を公表しているもの等に対し,放送番組での著作物の利用の許諾を行った場合には,当該許諾に際して別段の意思表示をした場合を除き,当該許諾には放送同時配信等の許諾を含むものと推定する旨の規定を設けています。

③レコード・レコード実演の利用円滑化【第94条の3、第96条の3関係】

改正前の著作権法においては,レコードやレコード実演については,放送で利用する場合は事前の許諾は不要ですが,配信を行う場合には事前の許諾が必要とされています。この点,例えば,著作権等管理事業者による集中管理等が行われている場合には,円滑に許諾を得ることができる一方で,そうでない場合には円滑に許諾が得ることが困難であり,放送で使用したレコードやレコード実演が放送同時配信等では使用できないおそれがあります。

このため,放送事業者は,商業用レコードに録音されている実演又は商業用レコードについて,著作権等管理事業者による管理が行われているものや文化庁長官が定める方法による権利者に関する情報を公表している場合を除き,通常の使用料の額に相当する補償金を支払って,放送同時配信等を行うことができる旨の規定を設けています。

④映像実演の利用円滑化【第93条の3、第94条関係】

映像実演については,放送で利用する場合も放送同時配信等で利用する場合も,いずれも許諾が必要ですが,放送については,初回の放送の許諾を得た場合,契約に別段の定めがない限り,再放送については許諾を不要とする特例が存在します。この点,放送同時配信等での利用について,著作権等管理事業者等による集中管理等が行われている場合には,円滑に許諾を得ることができる一方で,そうでない場合には円滑に許諾を得ることが困難であり,再放送する映像実演が,放送同時配信等できないおそれもあります。

このため,改正前の法第94条(改正後の法第93条の2)と同様の措置として,実演家が映像実演の初回の放送同時配信等の許諾をした際に,契約に別段の定めがない場合には,著作権等管理事業者による管理が行われている実演や,文化庁長官が定める方法により実演の権利者に関する情報を公表している場合を除き,通常の使用料の額に相当する報酬を支払って,事前の許諾なく利用すること可能としています(改正後の法第93条の3)。

また,初回の放送同時配信等の許諾を得ていなかった場合で,初回の放送から時間を経過しているような場合には,権利者に連絡ができなくなっていることがあり得ます。このため,初回の放送同時配信等の許諾を得ていない場合にも,契約に別段の定めがない限り,実演家と連絡するための一定の措置を講じても連絡がつかない場合には,あらかじめ文化庁長官の指定する著作権等管理事業者に通常の使用料額に相当する補償金を支払うことで,事前の許諾なく放送同時配信等することができることとしています(改正後の法第94条)。

⑤協議不調の場合の裁定制度の拡充【第68条関係】

改正前の第68条は,放送の公共的性格に鑑み,放送事業者が著作物の放送での利用に当たって,権利者に協議を求めたが,その協議が不調に終わった場合,文化庁長官の裁定を受け,一定の補償金を支払うことで,著作物を放送することができる旨を規定しています。

この裁定制度について,著作物を放送同時配信等するに当たっての協議が不調に終わった場合にも利用することができるよう,対象範囲を拡大することとしています。

令和5年 著作権法改正

(1)著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設

①新たな裁定制度の創設【第67条の3関係】

デジタル化の進展により、コンテンツの創作や発信、利用が容易になり、これまで主流であった出版社やテレビ局のような「プロ」がかかわるのではなく、一般の方が創作しインタ―ネット上に掲載したコンテンツや過去の作品の新たな利用ニーズ等が増加しています。こうしたコンテンツ等は、著作権者等と連絡がとれず、必ずしも円滑な利用に結び付いていないといった課題がありました。

このため、許諾を得て利用することが難しいコンテンツについて、適法な利用を促し、それにより発生した対価を著作権者に還元する仕組みとして、新たな裁定制度を創設しました。

本制度は、集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等(以下「未管理公表著作物等」)について、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、3年を上限とする時限的な利用を可能とするものです。著作権者等は、文化庁長官にこの裁定の取消しを請求することができ、文化庁長官により裁定が取り消された場合には、裁定による利用は停止され、利用されていた間の補償金を受け取ることができます。

②窓口組織による新たな裁定制度等の手続の簡素化【第6章関係】

新たな裁定制度の創設にあたって、その手続の迅速化・簡素化及びに適正な手続を実現するため、文化庁長官による指定・登録を受けた民間機関が、利用者の窓口となって手続を担うことを可能としました。

窓口となる組織は、実施する業務や機能に応じて、①指定補償金管理機関、②登録確認機関の二つに分けて規定を整備しました。

指定補償金管理機関は、以下の(ⅰ)~(ⅳ)の業務を行うこととしています。

(ⅰ)著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)、裁定申請中利用(第67条の2)、新たな裁定制度(第67条の3)により著作物等を利用する際の補償金及び担保金の受領に関する業務

(ⅱ)受領した補償金及び担保金の管理に関する業務

(ⅲ)補償金及び担保金の著作権者等に対する支払に関する業務

(ⅳ)著作物等の保護に関する事業並びに著作物等の利用の円滑化及び創作の振興に資する事業(著作物等保護利用円滑化事業)に関する業務

登録確認機関は、文化庁長官の業務を代行し、以下の(ⅰ)~(ⅲ)の業務を行うこととしています。

(ⅰ)新たな裁定制度の申請の受付に関する事務

(ⅱ)申請が新たな裁定制度の要件に該当するか否かの確認(要件確認)に関する事務

(ⅲ)通常の使用料の額に相当する額の算出(使用料相当額算出)に関する事務

文化庁長官は、登録確認機関の要件確認及び使用料相当額算出の結果を考慮して、新たな裁定制度による裁定と補償金額の決定を行わなければならないこととしています。

2)立法・行政における著作物等の公衆送信等の権利制限規定の見直し【第41条の2~第42条の2関係】

改正前の著作権法第42条においては、裁判手続のために必要と認められる場合及び、立法・行政のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において著作権者等の許諾なく著作物等の複製をすることが可能とされていましたが、クラウド保存やメール送信等の公衆送信は著作権者等の許諾が必要とされていました。

デジタル社会の基盤整備の観点から、同条の複製で認められる範囲と同じ範囲において、著作権者等の利益を不当に害しない場合には、著作権者等の許諾なく①立法・行政の内部資料としての公衆送信等をすることと、②法律等で規定された特許審査等の行政手続等のための公衆送信等することを可能としました。

また、裁判手続においては、裁判手続のデジタル化のための各種制度改正に併せて、著作物等を公衆送信等できるよう、規定の整備を行っています。(令和4年民事訴訟法等の一部を改正する法律、令和5年民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)

なお、クリッピングサービス等既存ビジネスを阻害するような、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、本条による公衆送信等はできず、原則通り著作権者等の許諾が必要となります。

3)海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し【第114条関係】

著作権侵害に対する損害賠償請求については、著作権者等の損害の立証負担を軽減するため、損害額の算定方法を規定しています。一方で、海賊版サイトによる被害が深刻化している中、損害賠償請求に関して、請求する側の損害の立証が困難であり、十分な賠償額が認められず、いわゆる「損害し得」の状況が生じやすいとの指摘がありました。

そこで、特許法と同様に、著作権侵害に対する損害賠償請求訴訟における著作権者等の立証負担の更なる軽減を図り、著作権者等の被害回復に実効的な対応策を取る観点から、損害額の算定方法を見直し、①著作権者等の販売等の能力を超える部分に係るライセンス料相当額を損害の算定基礎に追加するとともに、②著作権侵害を前提とした交渉額を考慮できる旨を明記し、ライセンス料相当額の増額を図ることとしました。

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