●「ミュージック・サプライ事件の概要」

昭和30年代の初め、札幌でレコード音楽を市内の飲食店、喫茶店などに「ミュージックサプライ」と称して有線による配信を行う商売を始めたところ、非常に繁盛した。しかし、その分の売り上げが減少したレコード業界9社は「レコード使用禁止と損害賠償」を求め提訴し、裁判は8年に及び最高裁まで争われた。

(現行法では、作詞・作曲家(著作権者)には「放送権・有線放送権」が、またレコード製作者・実演家(著作隣接権者)には「商業用レコードの二次使用に関わる報酬請求権」が明文化されている。)

●事件番号 昭和34(オ)780 事件名 レコード使用禁止等請求 裁判年月日 昭和38年12月25日 法廷名 最高裁判所第二小法廷 裁判種別 判決 結果 判例集巻・号・頁 第17巻12号1802頁

原審裁判所名 札幌高等裁判所

●判示事項
一 著作権法第二二条ノ七の規定する録音物著作権は有形的複製権のみを内容とするか。
二 レコードの有線放送は著作権法第三〇条第一項第八号の興行に該当するか。 + 新規カテゴリーを追加
三 録音物著作権と著作物の出所明示義務の範囲。

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●裁判要旨

一 著作権法第二二条ノ七の規定する録音物著作権は、機器から機器に機械的に複製する、いわゆる有形的複製権のみを内容とするものではなく、興行権をも含む。
二 レコードに録音された音楽等を再生して有線放送することは、著作権法第三〇条第一項第八号の興行に該当する。
三 著作権法第二二条ノ七の規定する録音物著作権につき著作権法第三〇条第二項に従う出所明示義務を履行するにあたつては、当該録音物が右録音物著作権の写調にかかることを明示すれば足り、これに写調された原著作物の出所まで明示する必要はない。

●参照法条 旧法…著作権法22条ノ7,著作権法30条1項8号,著作権法30条2項

■主    文
原判決中、上告人敗訴の部分を左のとおり変更する。
上告人は、被上告人らとの間において、第一審判決添付別紙目録記載の各レコードを有線放送に使用する場合、その使用の都度、当該レコードがそれぞれ被上告人らの写調にかかる旨を明瞭に有線放送しなければならない。
被上告人らのその余の請求を棄却する。附帯上告に関する分を除き訴訟の総費用は、これを四分し、その三を被上告人らの負担とし、その一を上告人の負担とする。附帯上告人らの附帯上告を棄却する。附帯上告費用は、附帯上告人らの負担とする。

■理    由
上告代理人小林尋次の上告理由一ないし八、同庭山四郎の上告理由第三点の三ないし七および上告人Aの上告理由第一点について。
論旨は、レコード写調者(録音者)の有する著作権に関する薯作権法の規定としては、同法二二条ノ七が存するのみであり、同条の認める録音物著作権は、機器から機器に機械的に複製(いわゆる有形的複製)する権利のみを内容とし、その機器により興行する権利を包含せず、同条規が「其ノ機器ニ付テノミ著作権ヲ有ス」というのはその意に解すべきであつて、そのことは、原著作物の著作権に関する 同法二二条ノ六の規定文言と対照すれば明らかであるという。
又、論旨は、従つて同法三〇条一項八号も、原著作物の著作権者の権利(同法二二条ノ六)の制限を規定するに過ぎず、録音物著作権者の権利(同法二二条ノ七)の制限を規定するものでないから、同条項八号があることを以て原判決の如き結論を導くことは誤りであり、著作権の内容は複製権であり複製権さえあれば興行権も含まれるとする原判決の解釈は、著作権法一条の一項と二項の対照からも誤りであることが判る(小林尋次代理人の所論八は、被上告人らの当事者適格の欠缺をいうが、その実質は、同所論一ないし七と同趣旨のこと、すなわち被上告人らにレコードによる興行権のないことをいうに帰すると解せられる。)と主張する。
しかし、レコードに録音された音楽等を再生してこれを本件の如く有線放送することはレコード著作権のなかに含まれるとし、同著作権は興行権をも含むとした原審判断は、正当であり、この点に異を唱える論旨は、独自の見解として採用できない。
レコード写調者の有する著作権すなわち、レコード自体につき有する著作権については、著作権法三〇条一項八号の適用の余地はないとする所論は、レコード写調者の著作権には興行権を含まないとする見解を前提とするものであるが、この前提論が独自の見解として是認されないこと前示の如くである以上、所論は採用の限りでない。又、原判決が、本件有線放送が同法のいう「放送」には該当しないが「興行」には該当するとして、同法三〇条一項八号、同条二項の適用ありとしたことは、正当である。
従つて、右の論旨は、すべて採用できない。

上告代理人庭山四郎の上告理由第一点について。
論旨は、原判決添付の本件レコード目録の不備を以て、原判決の主文の不特定ないし原判決の理由不備をいうが、記録上明らかなとおり、この点の瑕疵は、既に原審の更正決定によつて是正されているから、所論は採用できない。
同第二点について。
所論は、原判決は訴訟当事者でないものに判決を言い渡した違法があるという。しかし、記録を検するに、本件は当初より上告人A個人を当事者とする訴訟であり、原判決もまた同個人に対するものであつて、所論違法は全く存しない。同人の個人営業が廃止され、従来の事業が所論会社の常業に移されたことを以て上告人が正当な当事者たる適格を失つたとする所論は、本訴請求ならびに原判決の認定判断を正解しないことによる見解であつて、採るに足らない。 所論中、原判決が本件著作権侵害行為を上告人個人の行為と認定判断したことの誤りをいう点は、原審の専権たる事実認定に異を唱えるか、ないしは独自の見解に基づき原判決を非難するに過ぎないものであつて、採用できない。
上告人Aの上告理由第三点について。
所論は、原審の専権たる証拠の取捨判断を非難するに尽きるものであつて、採用の限りでない。 

上告代理人庭山四郎の上告理由第三点の一、二および上告人Aの上告理由第二点について。
 所論は、原判決が出所明示義務の内容として、本件レコードを有線放送に使用の都度、その楽曲の作曲者、編曲者、作詞者、演奏者、歌唱者の氏名までも明示すべきであるとした点の違法を指摘する。 本件有線放送がレコード著作権者の興行権に含まれるとする原審判断が正当であることは、前示のとおりであるから、上告人とレコード著作権者たる被上告人らとの間に著件権法三〇条一項八号及び同条二項の適用があり、従つて、上告人は本件レコードを有線放送に使用の都度、当該レコードの出所明示義務を被上告人らに対して負うものとする原審判断は、正当といわねばならない。
しかして、訴訟において、その命ずべき右出所明示義務の範囲を決定するにあたつては、その請求における侵害の対象たるべき著作権が何かということを明確にしなければならない。すなわち、当該対象たるべき著作権が原著作物の著作権であるか第二次的著作物たる録音物の著作権(写調権)であるかによつて、出所明示義務の範囲もまた異るものといわねばならない。
本件は、原著作権者の著作権に基づく請求ではなく、ただ、第二次的著作権者たる被上告人らの請求なのであるから、本件における出所明示義務の範囲は、有線放送に使用される当該レコードがそれぞれ被上告人らの写調にかかる録音著作物であることを明示すれば足り、これに写調された原著作物の出所まで明示する必要はないといわねばならない。
よつて、原著作権者のレコードによる興行権を取得したことを主張して、その権利の侵害をも請求原因とする旨の特段の主張なく、従つてその認定判断のない本件としては、右論旨指摘の点で、原判決は法律の解釈適用を誤つたものというべく、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点で原判決は上告人敗訴部分中、右違法を是正すべき部分につき破棄を免れない。しかして、本件は、原審の確定したところに従つて直ちに判決をなしうべく、当裁判所は、上述の理由により、主文第二項掲記の方法による出所明示義務の履行をもつて十分と考えるから、その余の被上告らの請求は棄却すべきものと判断する。
しかし、上告人の上告は右以外につき理由がない。

附帯上告代理人城戸芳彦名義、同松井正道の附帯上告理由第二点について。
所論は、著作権法三〇条一項八号にいう「興行」に本件有線放送を含むとした原判決の解釈の違法をいう。
しかし、原審の右解釈適用は、正当として首肯できるところであり、所論は独自の見解であつて採用できない。
同第三点について。
原判決は、所論の場合著作権者は単に出所明示請求権を有するにすぎないと解する旨判示してはいないのであるから、原判決が右解釈をとつたことを前提とする所論は当らない。 原判決が、その認定の事実関係のもとで、附帯被上告人の有線放送が使用レコードの出所不明示のまま今後反復される可能性のあることを判定し、これによる附帯上告人らの著作権に対する侵害行為を防止するにつき必要にして十分な給付義務として、今後本件レコードを有線放送に使用の場合、その使用の都度出所明示の放送を行うべきことを以て足りるとした判断は、正当として首肯できる。所論は、独自の見解であつて採用できない。
同第四点について。
所論は、原判決が附帯被上告人に出所の明示をする意思が全くないとも認められないと判示した点と著作権侵害が同人によつて今後反覆される虞ありと判示した点との間に理由説示が前後矛盾することをいう。 しかし、原判決は、所論の如く、出所明示をなす意思の存在することを肯認しているのでもなく、又その存在が未だ不明であるとも判示していないのであつて、右判示はいずれも未然の可能性ある事実を認定判示したものであつて、前後に毫も矛盾はない。従つて、右を以て原判決に理由そごありとする所論は採用できない。
附帯上告代理人勝本正晃の附帯上告理由について。
論旨中、権利濫用をいい、よつて憲法一二条違背をいう所論は、附帯被上告人の有線放送がレコードによる興行として極めて異状な方法を用い、かつその結果第三者に不当な被害を与える行為であり、単にレコード製作販売会社の営業上の利益を害することのみを目的とする行為であるとして、それが権利濫用を来たすことをいうが、右は原審において主張なく従つて認定判断のない事項に基づくか独自の所見に基づく主張であつて採用できず、右権利濫用を前提とする違憲の論旨は、その前提を欠くものとしてとり上げる余地がない。 所論中、附帯被上告人の本件有線放送が不正競争防止法に反する行為であるとの点、及び、それが物価統制令一二条に違反する虞ないし疑いありとする点は、原審において全く主張判断のない事項にかかり、附帯上告理由として採用できない。
なお、附帯上告代理人城戸芳彦名義、同松井正道の附帯上告理由第一点の理由がないことは前記大法廷判決の判断したところであり、本件附帯上告は棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担については、民訴法九六条、九二条、九三条、八九条を適用のうえ、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    奥   野   健   一
裁判官    山   田   作 之 助
裁判官    草   鹿   浅 之 介
裁判官    石   田   和   外

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